WEB MAGAZINE2024.5

OLIO design : IXC. R&D


再生紙とアルミでできたシンプルかつ環境配慮型デザインのチェアとして、1993年にグッドデザイン金賞を受賞したOLIOチェア。 コンセプトは「再生」。 再生紙を熱圧プレス成形した硬質パルプ紙とアルミロッドの差し込み構造が特徴的で、軽くて丈夫なスタッキングチェアです。2022年の復刻ではフレーム素材をアルミからスティールに変更したことで、コンセプトはそのままに座り心地を改善しています。2024年、イタリア・ミラノにあるADI Design Museumの企画展「ORIGIN of SIMPLICITY 20 Visions of Japanese Design の展示作品に選出されました。発売から30年以上経過した今もなお注目を浴びる、OLIOチェアの開発ストーリーをご紹介いたします。

STORIES開発ストーリー

始まりはデザインへの
強い探究心から

開発担当:堀尾 俊彰

1990年当時、カッシーナ・イクスシー創業者である武藤さんから期待されていた役割は、デザインするよりも世界中の素晴らしいデザインを日本に輸入し、製品に昇華させる「デザインセンター」としての仕組みづくりでした。 この役割の重要さは理解していましたが、デザイナーとしての情熱は、より創造的な表現を求めていました。 その気持ちを充足させるため、勤務外の時間を利用してお世話になっている工房でオリジナルデザインの制作に没頭しました。機械の使い方を一から教わり、制作したオリジナルデザインはコンペティションなどに出展していました。その時期に生まれたデザインの中に、今日のOLIOの原型も息づいていたんです。


様々な素材で作成された模型

構造への挑戦

当時、ネジ接合構造のゆるみを解決することが大きな悩みでした。 なんとかネジを使わない構造はできないかと考え、そこで自在鉤(じざいかぎ)の構造を家具デザインに応用するアイデアが生まれました。この構造は摩擦の力を利用する事により、座る人の体重によってシェルの素材が伸び、それに伴う摩擦で座面が椅子の脚にしっかり固定され、ねじ止めが補助的に使える椅子の構造を実現する事ができました。

シンプルな構造は強度への挑戦でもあります。

通常チェアは強度を確保する為に前後左右に貫き(ぬき)等が必要となります。OLIOはそれらの貫きを省略出来る接合方法を開発しました。 脚をループ状にし、脚と後脚がそれぞれシェルに貫通して巻きつく事で、前後方向、左右方向の動きに耐えられるように設計しました。


このように脚とシェルがお互いに支え合うことで貫きがある状態より、より強度な構造を可能にすることができのです。

(右・下写真)前脚・後ろ脚でしっかりシェルを2点で固定  

(下写真)前脚・後ろ脚でしっかりシェルを2点で固定  

また大きな特徴の一つとして、植物繊維を原料とした100%再生紙の硬質パルプ紙を採用しました。「薄い折り目のついた背もたれ」は、座ると背に馴染み、強度な構造を持ちながらも素材の特性を活かした軽やかさを感じる椅子に仕上がりました。このリサイクル素材の選定は、1992年の発売当時にはまだ人々の関心が低かった環境負荷を減らす取り組みに貢献し、長く愛される要因になったと感じています。


製品開発への想い

OLIOチェアが発売されて以来、国内外のメディアや展示会に選出され非常に嬉しく思っています。構造や素材への探究心や興味はデザインを始めて30年以上経過した今でも、製品開発中心にあると深く感じさせてくれます。また開発の過程で多くの工房の職人の皆様にお世話になりました。沢山の人の関わりで完成したOLIOチェアが、長く人々に愛されることになったことはデザイナー人生の中でも特に光栄に感じています。


AWARD/EXPOSURE

1993年|デザインフォーラム展 銅賞 受賞
1993年|グッドデザイン賞 家具・インテリア部門 金賞 受賞
1993年|インテリア専門誌「室内」10月号表紙
1994年|イタリア インテリア専門誌「 INTERNI」483号表紙
1994年|ドイツ デザイン専門誌「MD」掲載
1996年|マイアミ「refuse」展出
1996年|ロンドン「Science musuim」展示&寄与
2002年|「日経エコロジー」6月号表紙
2003年|織部賞 受賞(無印販売)
2009年|JIDA MUSEUM コレクション 寄贈
2024年|ADI Design Museum「SIMPLE - Japanese Design」展示

JIDA MUSEUM コレクション 寄贈
マイアミ「refuse」展出
ADI Design Museum「SIMPLE - Japanese Design」展示 | photo credits:Denise Manzi
イタリア インテリア専門誌「 INTERNI」483号表紙
デザインフォーラム展 銅賞 受賞
JIDA MUSEUM コレクション 寄贈
マイアミ「refuse」展出
イタリア インテリア専門誌「 INTERNI」483号表紙
デザインフォーラム展 銅賞 受賞

ドイツ デザイン専門誌「MD」掲載文ー1994

The first single-piece seat-cum-backrest shells for batch production of chairs were the rage about 40 years ago. They used to be made of FRP such as the DSX (1949/51) by Charles Eames, or of moulded wood such as Arne Jacob-sen’s Ant (1952/54). Ecology-min-dedness being the great trend today, one is hardly surprised to see that even waste paper can at times become a trendy material for chairs, albeit that the OLIO stackable model quite conventionally draws on man-made resin to stabilise it. Thus it is that Horio is spectacular by virtue of its reduced design rather than its material. In fact, the”warped” shape of its blue, black, yellow or red backrest lends to it so much stability that there is no need for any crossties to be wedged in between its black epoxy-coated or chrome-plated steel-tubing runners.

約40年前、一体型の椅子のデザインが流行し、チャールズ・イームズやアルネ・ヤコブセンのようなデザイナーたちはFRPや成型木材を用いて革新を追求していました。今日では、エコロジーへの意識が高まり、廃紙さえも椅子の素材として再評価されていますが、OLIOは人工樹脂を使いプロダクト安定性を確保しています。しかし、真の魅力は素材の新しさだけではなく、その簡素で洗練されたデザインにあり、特徴的な「薄い折り目のついた背もたれ」は椅子に驚くほどの安定性を与え、余計な補強を不要にするほどです。

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